一言アンケート
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翻訳者が「翻訳ソフトで何ができるか」「翻訳ソフトで何をすべきか」という点に関しては、根強い誤解があります。このような誤解は、ユーザー層や用途の混同、合理的発想の欠如、ソフトに対する不信感・拒絶反応(ルーウェリン反応)、表面的なことしか知らないのに決めつける、などさまざまな要因があります。翻訳ソフトの開発メーカーにおいても、「翻訳者がどのように翻訳ソフトを使用すべきか」という点は必ずしも理解されていません。翻訳ソフトのユーザー層の大半は「英語が苦手な人」であり、プロの翻訳者とは正反対の特性を持っているからです。
最近のほとんどの業務用翻訳ソフト製品には翻訳メモリー機能が含まれており、またその逆として翻訳ソフト機能を持つ翻訳メモリー製品も存在します。原理的には翻訳ソフトと翻訳メモリーは異なります。翻訳メモリーは言語的な分析や処理を行なう機能を持たず、文単位で翻訳資産を再利用します。これに対し翻訳ソフトは、言語的な処理を行い、ユーザー辞書を管理することにより語句単位で翻訳資産を管理、再利用します。
翻訳メモリーと翻訳ソフトのどちらか一方しか使わないのでは限られた効果しか得られません。翻訳メモリーと翻訳ソフトの両方を統合するワークフローにより、はじめて最大限の効率を発揮し、品質を向上できますが、基本的な機能はしっかり区別する必要があります。
翻訳者が翻訳ソフトを使うのは、「英語が分からないから」ではありません。翻訳者ユーザーと一般ユーザーの使い方はまったく異なります。英語が苦手な一般ユーザーにとっての翻訳ソフトとは、ボタンを1つ押せば翻訳結果が出るお手軽ソフトです。翻訳者ユーザーは、そのような単純な使い方はしません。ユーザー辞書を体系的に構築し、いくつもの整形ツールを使用して翻訳者が結果の訳文を自分の思い通りになるように高度な調整を行います。翻訳者にとって、翻訳ソフトとは 辞書引きと用語・表記の適用を自動的に行う「用語適用ツール」なのです。
翻訳業務ユーザー(プロの翻訳者でないユーザー)もこのような使い方をすることができますが、クライアントの要求を正確に実現する翻訳者にこそ意義があるといえます。
翻訳者にとっては「ユーザー辞書がすべて」です。ユーザー辞書により、クライアントが指定した語句や表現を正確に適用することができます。どの語句を使用するかということは翻訳者が完全に掌握し、指定する必要があります。ユーザー辞書を使用しない翻訳ソフトの比較は無意味です。また一般ユーザーならともかく、翻訳者の場合は、ユーザー辞書を使用していない場合は「翻訳ソフトを使った」とはいえません。 ユーザー辞書を使用しないのでは、翻訳ソフトの本来の力の数割程度しか出せません。
またユーザー辞書さえ適切であれば、一定水準以上の翻訳ソフトの精度に大差はありません。違いが出てしまうということはユーザー辞書が不十分であるということになります。翻訳者にとっては、むしろ対訳エディタの使い勝手や辞書管理ツール、環境管理などが重要になります。
翻訳ソフトを使うのは、コスト削減のためだけではありません。大量の技術文書を完全に自動翻訳するソリューションもありますが、その場合は明らかに品質は低いものとなります。翻訳者が翻訳ソフトを使う場合は、能率の向上も得られますが、「品質の向上」が重要です。
翻訳ソフトは、翻訳の本質的な質を直接向上させるものではありません。つまり翻訳ソフトが「翻訳者の代わりに」翻訳をしてくれるわけではないのです。しかし翻訳ソフトを使えば、ツールなしでは時間をかけなければ不可能なほど丁寧な作業を、効率よく行うことで品質を大きく向上することができます。「だれがやっても同じ工程」を自動化することにより、翻訳者は「人間でしかできない作業」、推敲や確認に集中することができます。
(内容は順次追加しますのでお楽しみに)