以下は、『IT時代の実務日本語スタイルブック――書きやすく、読みやすい電子文書の作文技法』の「はじめに」です。
本書は、「軽くて、丈夫で、コンパクトで、精密な」日本語の書き方である、実務日本語をご紹介します。言い換えれば、書きやすく読みやすい、簡潔で実用的な日本語です。企業や組織、学校で、以下のような実務的な文書を作成する方にお勧めです。
- 説明文、報告書、論文など、まとまった長さの文書を作成する方
- 専門的な、込み入った事柄を、不特定多数の人に正確に説明する必要がある方
- 文章が「あいまい」、「分かりにくい」、「読みにくい」と言われた方
- 多数の書き手が関わる、チームでの共同作業で文書を作成する方
- 同じ文書内容をさまざまな形で再利用する方
- 他人の書いた文章をまとめたりチェックしたりする方
本書は、社会人や学生の方に、気楽に読んでいただくことを目指しています。学生の方には、社会人の文章技能の基礎になる、小論文やレポートでの文章作成に役立てていただけます。また、翻訳者やテクニカル
ライティングの専門家の方にも参考にしていただけます。
本書では、「どうすれば分かりやすい実務文章が書けるか」という最善慣行(ベスト プラクティス)を示します。特に、実務文章での日本語のスタイル
ガイド、つまり的確な作文と表記の方法である「実務日本語」を提案します。これは、「悪文は労力と費用を増加させる」という合理的な理由付けに基づいています。適切な日本語を使えば、ビジネスの労力を減らし、費用を下げられます。表記法は、文章を書くうえでの「迷いをなくす」ためのものです。簡単で実用的ないくつかのルールを頭に入れるだけで、分かりやすい日本語にできます。例文には、文章の問題点が一目で分かるようにポイントを絞った、簡潔で読みやすい文を厳選しています。
本書には、以下の3つの大きな特色があります。
- 実務翻訳者が書いた日本語作文の本
- 電子文書でのより良い書き方を示す
- 権威ではなく、合理的な裏付け
第一に、私は、実務翻訳者です。本書の対象は、翻訳に限りませんが、実務翻訳者は、非常に幅広い分野、さまざまな種類の文書を扱う「実務文章のプロ」であり、「日本語のプロ」であることが求められます。読みやすく、誤字・脱字のない「売り物になるレベルの」高品質の文章を、短時間で作成するための、さまざまな実用的なノウハウを紹介しています。また、翻訳者は、英語やその他の言語の視点から、客観的に日本語を捉えることができます。私は、各種の翻訳ツールの技法について、企業向けに講習やコンサルティングを行うほか、複数の翻訳学校でも講習をしています。翻訳者・通訳者向けの翻訳技能記事、英語学習者向けの英語学習法など、これまでに220件以上の連載や特集記事を執筆しています。本書は、このような蓄積の中から生まれました。
第二に、本書では、電子文書の利点を活かす表記法と、より良い書き方を示します。さまざまな電子文書の形式に精通した実務翻訳者の技法は、日本語作文に活かせます。たとえば、Microsoft Wordなどのワープロには、すばやく快適に文書作成するための多くの活用法があります。Word入門書にはない、より根本的な原則から、実践的で具体的な手順までご紹介します。
第三に、文書の書き方について、権威ではなく、合理的な裏付けに基づいています。「昔からそうなっているから」というだけでなく、可能な限り「なぜこう書いたほうがいいのか」ということを合理的に説明しています。ふだんは気づきにくいことですが、日本語は百年前と比べて大きな変貌を遂げています。電子文書が、ウェブサイトや電子書籍として急速に広まる中、世界に通用する日本語を考え直す必要があるのではないでしょうか。